草間彌生ビトン
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null ギター弾きはおどけた表情だったが、その実|凄味《すごみ》をちらつかせていた。 「その手に乗る俺じゃねえや。甘く見てもらいたくねえな」 「本当にないんだよ。あったら払うさ」 「金もないのに流しギター弾きに唄わせたのかい」 「そう言われても困る。もともと僕は唄ってくれと頼みはしなかったんだ」 「へえ、そうかい」  ギター弾きは肩紐《かたひも》をずらせてギターを背中へまわした。喧嘩《けんか》の構えである。 「じゃあ何とおっしゃったんだね。ええ、旦那」 「宇宙人の間では、どんな歌がはやっているかと訊いただけだ」  金がない以上、私も肚《はら》を据えるより仕方がなかった。 「こういう歌を唄ってくれと、曲を指定したかい」  ギター弾きはちょっとひるんだようだった。しかしすぐ気をとり直す。 「どんな歌がはやっているかと訊かれれば、たのまれたも同然だ。俺は水道屋じゃないんだぞ。ごらんのとおりギターをかかえて歩いてる人間だ」 「それなら訊くが、さっき唄ったのは都はるみの歌のはずだ。僕は宇宙人の間ではどんな歌がはやっているかと訊いたんだ。宇宙人の間であの歌がたしかにはやってるのか」  ギター弾きは敵意のこもった目で私を睨みつけた。 「ええ、どうなんだい」 「言葉の綾《あや》だろう」 「僕は本当に知りたくて訊いたんだぜ。君は宇宙人を知っているらしいじゃないか。宇宙人たちは都はるみの歌が好きだと言うんだからな。ここには宇宙人がいるんだな……。そうなんだろう。君は宇宙人たちを知っている。どこにいるんだい。会わせてもらおうじゃないか」